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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)921号 判決 1973年3月14日

原告

住吉信用金庫

右代表者

中村定次郎

右訴訟代理人

中村健太郎

中村健

被告

株式会社福徳相互銀行

右代表者

松本理作

右訴訟代理人

河合伸一

河合徹子

板東宏和

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

(一)、第一次請求

(1)、被告は原告に対し、別紙第一、第二物件目録記載の各不動産についての大阪法務局中野出張所昭和三四年一一月二一日受付第三三四六五号根抵当権設定登記につき、昭和四三年四月二七日付代位弁済を原因とする移転登記手続をせよ。

(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

(二)、予備的請求

被告は原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和四三年五月一日から昭和四四年九月末日までは年二分四厘の割合による金員、同年一〇月二一日から完済に至るまでは年六分の割合による金員を支払え。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)、原告は昭和三七年七月二六日、株式会社三和食品興業所(以下訴外会社という)との間に証書貸付、手形貸付、当座貸越等の銀行取引契約(与信契約)を結び同年一〇月二六日、植田萬吉及び植田初は右与信契約上の債務を担保するため、それぞれその所有の別紙第一物件目録及び同第二物件目録記載の各不動産につき、債権元本極度額を金一、〇〇〇万円、損害金を日歩六銭とする根抵当権を設定し、大阪法務局中野出張所同日受付第二七七四〇号をもつてその登記を経た。

(二)、被告は昭和二九年七月三一日、訴外会社との間に手形貸付等銀行取引契約を結び、昭和三四年一一月一九日、植田萬吉及び植田初は右与信契約上の債務を担保するため、それぞれその所有の別紙第一物件目録及び同第二物件目録記載の各不動産につき、債権元本極度額を金三〇〇万円とする根抵当権を設定し、大阪法務局中野出張所同月二一日受付第三三四六五号をもつてその登記を経由し、さらに、被告は昭和三六年三月一五日、植田萬吉及び植田初との間にそれぞれ右根抵当権の債権元本極度額を金六〇〇万円に変更する根抵当権変更契約を結び、同法務局同出張所同日受付第六四五七号をもつてその登記を経た。

また、被告は昭和三四年一一月一九日右両名との間にそれぞれ別紙第一物件目録及び同第二物件目録記載の各不動産につき代物弁済予約をなし、同法務局同出張所同月二一日受付第三三四六七号及び第三三四六六号をもつて、いずれも右代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経た。<中略>

(五)、そこで、原告は民法五〇〇条に基づき被告に対し、昭和四三年二月二一日及び同年三月一四日の二回にわたつて被告の前記確定被担保債権額金六〇〇万円を現実に弁済提供したが、その受領を拒否されたため、同年四月二七日これを大阪法務局へ弁済供託したところ、被告は同年一〇月二一日に右金員の還付を受けた。<後略>

理由

<証拠略>によると、請求原因(一)の事実が認められる。

請求原因(二)の事実は当事者間に争いがなく、また同(五)の事実中原告がその主張の日に被告に対し金六〇〇万円を現実に弁済提供をしたこと、被告が受領を拒否したこと、原告がその主張の日に右金員を弁済供託し、被告が原告主張の日に右金員の還付を受けたことは当事者間に争いがない。

そして右認定事実によると、原告は後順位担保権者として先順位担保権の被担保債務を債務者に代つて弁済するにつき正当の利益を有するものというべきである。

原告は、被告と訴外会社との与信契約は終了したと主張する。<証拠略>によると、訴外会社、植田萬吉、植田初と被告間の取引約定書には期限の定めがないことになつており、<証拠略>によると、訴外会社振出の手形について昭和四三年二月二一日取引拒絶処分がなされていることが認められ、また原告主張の日に訴外会社が破産宣告を受けたことは当事者間に争いがないが、右の事実により右取引が終了する旨の特約は認めるにたりる証拠がないから、原告主張の日に取引が終了したものということはできない。

しかし、<証拠略>によると右銀行取引停止処分のあつた日以後に被告が訴外会社に対し与信取引をしたことは認められないし、<証拠略>被告は訴外会社らに対する大阪地方裁判所昭和四三年(ワ)第三〇五六号所有権移転登記等請求事件訴訟において、被告と訴外会社との手形貸付等の継続的取引は訴外会社が昭和四三年二月二一日手形不渡により銀行取引停止処分を受けたため、訴外会社らは原告との間に定めた手形交換所の取引停止処分があつたときは期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するとの約旨により即時全債務を弁済すべきことになつたのに弁済しないとして昭和四三年四月一三日植田萬吉、植田初との代物弁済予約に基づき、当時被告が訴外会社に対して有していた約束手形による手形貸付金債権計一四、五五三、五五八円(手形金額より各満期までの戻し利息控除済)の代物弁済として別紙目録記載の不動産の所有権を取得する旨の予約完結の意思表示をしていること、これに対し訴外会社らは右主張を争つていないことが認められるから、昭和四三年四月一四日当時当事者間に取引をしない旨の黙示の合意が成立したものというべきである。

そして<証拠略>によると、被告は訴外会社に対し昭和四三年四月一三日当時合計一四七〇万円の手形貸付金債権を有していたことが認められるから、これが被告の根抵当権の被担保債権である。

ところで、根抵当権の被担保債権が確定したとき、その債権額が極度額を超過している場合には、その担保されるべき債権のすべてを債権極度額を限度として担保するものと解すべきである。従つて右被担保債権の一部を弁済しても担保されるべき限度額がそれだけ減少するのではなく、残存債権の総額が債権極度額の限度において依然として担保されているというべきである。

これを本件についてみるに、原告が六〇〇万円を弁済供託しても、被告の根抵当権の被担保債権は前記金額より六〇〇万円を減少するにすぎず、弁済者たる原告は民法第五〇一条、第五〇二条の規定により、その求償権の範囲内で、すなわち弁済した債権の一部を取得し、その根抵当権をそれぞれの債権額の割合による持分(すなわち弁済した債権額と残存債権額の割合による持分)で準共有することになるものと解すべきである

原告が根抵当権の全部を取得するためには被告の被担保債権金額を弁済しなければならないというべきである。

そうすると、原告の第一次請求は理由がない。<中略>

以上の次第であるから、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(宮本勝美 西池季彦 辻中栄世)

別紙目録<略>

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